1on1の導入を疑問視していたマネジャー陣の「目の色が変わった」瞬間に、手応えを感じました
背景・課題
年齢やポジションに関係なく、アイディアをオープンに発言できる環境をつくりたい
池田:野村不動産は、設立から60年以上の歴史を持つ総合不動産デベロッパーです。「PROUD」に代表される分譲マンションをはじめ、オフィスビル、物流施設、商業施設、ホテルなどを開発、営業、運営しています。そして、私たちが所属する人材開発二課のミッションは「人材育成」。社員のレベルアップを支援する階層別研修を主軸に、自己研鑽を促すプログラムなどを提供しています。
人材育成を担う上で、私たちが大切にしているテーマは「自律」です。社会情勢の変化は目まぐるしく、世の中の価値観や求められる商品は変わってきている。そこに応えていくためには、社会の変化に敏感で、新しい意見を提案できる「自律的な社員」を育てていかなければなりません。最近よく耳にする「イノベーション」を起こせるような人材です。
富吉:もともと当社の社風として、自らの考えで行動できる「自律的な人材」はたくさんいます。というのも、まだ野村の名前が今ほど知られていなかった時代から、年齢や経験に関係なく仕事を任せてきた歴史があるからです。今では当社を代表するブランドとなった「PROUD」を一流に押し上げるため、一丸となって力を発揮してきた。そのときの魂は、今も社員一人ひとりに受け継がれています。
若手からベテラン、さまざまなポジションやバックボーンを持つ多様な社員のなかには、今後の事業の柱となるようなヒントやアイディアがきっと眠っている。私たちは人事部として、そうした意見をどんどんアウトプットできる環境を整えていかなければいけません。そのためには、新しいマネジメントのあり方が必要になると考えました。
上意下達型のマネジメントから、上司と部下がサポートし合う関係性へ
池田:これまで当社のマネジメント層に対しては特段の育成メニューがなく、それぞれのマネジャーが独自のマネジメント方法を実践してきたと思います。成功体験を踏まえて自分のノウハウを直に部下に伝えていくスタイルが多かったように思います。「PROUD」の発展に貢献してきたマネジャーの貴重なスキルを直接学ぶことができるものの、一方的なマネジメントにもなりがち。組織として先細りしてしまう可能性もあります。中長期的な視点から会社の成長を考えるなら、今後は「部下のなかに次のビジネスのヒントがあるかもしれない」と、アイディアを引き出す方法も付け加えていく必要があるでしょう。
また、目標達成意欲が強い社員が多いため、業務に関する話に終始してしまいがちです。なかなか業績が上がりづらいときは、KPIが話題の中心に。マネジャーは必死なのですが、必要以上のプレッシャーを感じる部下もいるでしょう。売上を注視するあまり視野が狭くなってしまうことも。私たちの世代は、そうしたプレッシャーのなかでの成長にやりがいを感じてきましたが、今後は、視野を広くして社会の変化や個人のキャリアについても会話をすることが必要と考えます。
富吉:そのためにも、上司と部下が相手の立場を理解して意見を交わしつつ、お互いの仕事をサポートし合える関係になれることが理想ですね。
検討プロセス・実行施策
1on1のスムーズな導入には欠かせなかった部下の心理状態の可視化
富吉:上司と部下が対等に話せるような関係性をつくる。そのための施策として、1on1の導入を決めました。目標設定や賞与のフィードバック面談とは違い、1on1では上司が質問を投げかけながら、部下の話にしっかり耳を傾けます。そうすることで、モチベーションの向上と、部下の自律的な成長を促します。質問されることで「そんな風に考えてみたことがなかったな」などと、思考を巡らせるきっかけにもなるでしょう。
しかし1on1の実施には懸念もありました。上司が上手くスキルを使えず、本来の目的を果たせないのではないか、部下にも必要性を感じてもらえず、時間を取られることを負担に感じる人がいるのではないか……と。実際、「部下とのコミュニケーションは取れているのに必要があるのか」「あらためて一対一で話すのは恥ずかしい」といった疑問や不安の声も挙がっていました。
そうした懸念を解消してくれた存在が、「INSIDES」でした。サーベイによって部下の悩みや不安が浮き彫りになるため、部下に対する興味が出てくる。「この結果が出たのはなぜだろう」「ここの数字はなぜ低いのだろう」といったように。そして「ぜひとも部下の話を聞いてみたい」という気持ちが自然に湧いてくる。1on1への意欲を高めるうえで、INSIDESは非常に効果的なツールだと思いました。
また、営業の業績は市況にも左右されるため、モチベーションを維持しにくい時期もありえます。そういったときでも、部下のモチベーションを常に把握できるため、早い段階で上司が部下の悩みに気づきフォローしてあげることも可能です。
池田:マネジャーによっては、30人以上の部下を抱えている人や、上司と部下で出勤場所が異なり、遠隔地でのマネジメントが求められる人もいます。こまめなコミュニケーションが難しいなか、タイムリーに部下のワークモチベーションを把握することができるのも、心理状態を可視化する大きな効果だと思います。
まずは人事部からスタート。上司と踏み込んだ話ができる、めったにない機会
富吉:自分たちが良いものだと思えなければ、社内に新しい仕組みを浸透させることはできません。1on1の効果を実感するため、はじめは私たち人事部から導入することになりました。
私が実際に1on1を体験して気づいたことは、普段話さない踏み込んだ話をしやすいということ。例えば、自分の将来に向けたキャリアの話や、勉強したい資格のことなどを相談することができました。普段ランチなどで日常的なコミュニケーションは取れていると思っていましたが、こうした個人的なことを話せるチャンスは、ありそうでなかなかありません。そのためのいい機会になりそうだと感じました。
効果を実感すると同時に、日常会話以上に意義のある時間とするためには工夫が必要だと気づきました。そこで、前述した「サーベイを通じて部下に対する興味を強める」ことの大切さを強く感じたのです。
またINSIDESでは簡単な性格診断もできます。性格やタイプによって、褒め方や励まし方は変わってくるので、そこを意識する上でも優れたツールだと思いました。INSIDESの懸念事項を挙げるとすれば、アンケートが記名式であること。どこまで正直に書いてくれるかな……という心配はありました。けれども、若手層は率直な回答をしてくれているように感じています。
成果・今後の取り組み
1on1の研修を受けて、百戦錬磨のマネジャー陣に変化が表れた
富吉:人事部でのトライアル実施後は、社内の他部門への導入研修をはじめました。リクルートマネジメントソリューションズの担当者からマネジャーにサーベイ結果の読み解き方を指導していただき、その後はグループ討論。実際に、自分の部下のサーベイ結果を見せて、「なぜこういう結果が出たか」「それに対するアクションはどうするか」といったことを話し合ってもらいました。
印象的だったのは、研修を進めるうちに参加者の目の色が変わっていったこと。予想外のサーベイ結果もあり、驚きを隠せないようでした。パフォーマンスが良く、楽しんで仕事に取り組んでいるように見えた部下が「淡々」や「窮々」の領域にいたり、思ってもみなかった部分に不安や悩みを抱えていたり。自分から見えていた姿との間にギャップがあり、衝撃を受けたマネジャーも少なくなかったと思います。それだけに1on1の必要性を大いに感じてもらうことができました。
また、この導入研修で横のつながりができたことも成果のひとつでした。マネジャー同士で市況や業績の話をすることはあっても、マネジメント方法について情報共有したり、特定のメンバーについて議論したりする場は、これまでほとんどなかったと思います。他のマネジャーのマネジメントスタイルを知り、参考になったことは多かったのではないでしょうか。
責任を負いながら部下の育成も担う、忙しいマネジャーを助けたい
富吉:なかには研修中に涙ぐむマネジャーもいました。1on1には「認知」という関わり方があります。「〇〇さんはこういう考え方をするんですね」「こういうことを大事にしているんですね」と言葉をかけ、相手の価値観や考えを認めるスキルです。研修中のロールプレイングで、自分の想いを受け止めてもらえたことに、心を動かされたようでした。上司がこうした体験をすることで、「部下にもやってあげよう」という意欲につながったと思います。
池田:長年会社を支えてきたマネジャー陣ですから、それぞれ積み上げてきた仕事のスタイルがあると思います。でも時代や価値観は変わってきている。指導を繰り返しても部下のモチベーションが上がらず、悩むことがあったかもしれません。この研修を通してこれまでの経験に縛られていたものから解き放たれたのではないでしょうか。リーダーとしての責任を負いながら、部下たちの育成も担っているマネジャー。その重圧を少しでも軽くするために、1on1やINSIDESを役立ててほしいと願っています。
富吉:1on1の導入後、サーベイ結果についての問い合わせが増えてきました。すごく関心を持ってもらっていることが感じられ、本当に良かったと思っています。今後もさまざまなツールの力を借りながら、多忙なマネジャーたちの助けになれるような環境をつくっていきたいと思います。
あきらめず、根気強く続けていけば、必ず理解は得られる
富吉:社員が大切にしたいこと、成し遂げたいこと、悩んでいることは、一人ひとり違います。今回、1on1×INSIDESの導入によって、組織単位だけでなく、個人単位に向き合うことの重要性をあらためて感じました。しかし、今までなかった新しい仕組みを社内に浸透させることは、簡単ではありません。ただ重要なのは、諦めず働きかけ続けることだと思います。今回の施策も、粘り強く私たちの想いを伝えてきたことで、少しずつ理解を得ていくことができました。
池田:私たちが目指しているのは、「社員一人ひとりの汗と涙と笑顔を全力で応援できる人事部」になること。そのためには、個性を大切にできる1on1の全社展開が欠かせません。これを適切に広めていくことができれば、全員が活き活きと働ける会社になれるはず。「ずっと野村不動産で働き続けたい」。社員みんなにそう思ってもらえるように、人事部はこれからも邁進していきます。
企業紹介
野村不動産株式会社
PROUDに代表される分譲マンションをはじめ、オフィスビル・物流施設・商業施設・ホテルなどさまざまなアセットの開発・営業・運営を行う総合デベロッパー。人、街が大切にしているものを活かし、未来(あした)につながる街づくりとともに豊かな時を人びとと共に育み、社会に向けて、新たな価値を創造し続けます。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。