トップイノベーターを目指し人的資本経営を推進。
1on1を軸とした自律支援型マネジメントにインサイズを活用
背景・課題
人財の力を引き出す人的資本経営が「TOP I 2030」実現のカギ
中外製薬は、バイオ・抗体医薬品、がん領域の国内リーディングカンパニーです。さらに関節リウマチ、血友病など、治療法が確立されていない分野でも新薬を開発。「世のなかの役に立つ薬をつくる」という創業の精神は、今も脈々と受け継がれています。
当社は社員を大切な資本・財産として捉え、20年前から「人材」を「人財」と表してきました。人事戦略を経営戦略の1つに位置付け、人財の価値を最大限まで引き出す人的資本経営を志向してきた歴史もあります。人財の成長と挑戦を支援し、一人ひとりのパフォーマンスを最大化するソリューションを提供することが、私たち人事部門のミッションです。そして、人事戦略は成長戦略に資することが大前提であると考えています。
成長戦略「TOP I 2030」は、2021年に策定されましたが、目指すのはヘルスケア産業のトップイノベーターです。中外製薬がこの先10年、どのように持続的成長を遂げていくかを社内外にも開示し、価値創造の原動力の1つにしています。10年という期間にしたのは、先が見えない時代だからこそ、10年後のあるべき姿を明確に描き、バックキャストでその実現を目指すためです。もちろん、3年後、5年後というスパンでマイルストーンを置いていますが、あくまでも「10年先のあるべき姿に向かう」という観点で、成長戦略が立てられています。「TOP I 2030」の中で私たちが掲げているトップイノベーター像は3つです。
1つ目は世界トップレベルの創薬力で新たな治療法を生み出し、世界中の患者さんから期待される会社になること。2つ目は世界中の多様な人財とプレーヤーを惹きつける会社になること。そして、3つ目は社会課題の解決をリードし企業として世界のロールモデルになることです。製薬事業はそもそも社会的価値が高いビジネスですが、それだけにとどまらず、「社会的価値を生み出すロールモデルとなる企業」を目指しています。
人事部門とHRBPが連携し、組織カルチャーの変革にも注力
また当社は、現場に寄り添い、よりきめ細かい人的資本経営を進めるため、部門責任者のパートナーとして人事戦略を進めるHRBP(Human Resource Business Partner)制度を導入しました。ビジネスと人と組織、そしてカルチャーは切っても切り離せないものです。部門間でどのように連携し、人財を育成するのかという横のつながりも含めて、全社最適を追求するHRBPによる人事施策の推進が大きなテーマとなっています。HRBPには、各部門の一人ひとりのキャリアに対応すると共に、組織カルチャーの変革リーダーという役目もあります。
人事部門とHRBPが連携し、社員に目配りする体制を整えてきましたが、先行きが見えないVUCA時代と呼ばれ、しかも働き方が多様化している今、トップダウンだけで組織を進化させ続けることはできません。そうした背景もあり「TOP I 2030」の「I」にはイノベーションという意味に加えて、「自分(I)が主役である」という意味も込められています。2020年からジョブ型雇用の人事制度を導入。コロナ禍の影響でリモートワークなど働き方の多様化も進むなか、自律型人財の育成はさらに重要課題となっていました。
検討プロセス・実行施策
Check in(1on1)で「自律支援型マネジメント」を促す
「TOP I 2030」で掲げたヘルスケア産業のトップイノベーターになるという目標を実現するためにも、自律型人財の育成が不可欠です。そして、自律型人財育成のカギになるのは、マネジメント改革だと考えています。私たちは、あるべきマネジメント像を「自律支援型マネジメント」と名付けました。上意下達ではなく、部下が自律するためのマネジメントを志向しようという意味です。その実践には、部下の成長を促す対話が欠かせないため、対話の機会としてCheck in(1on1)を設けました。マネジャーが指示を出すのではなく、部下の成長を「促す」、または成長を「支援する」ことがねらいです。部下の自律性を養うためには、日常業務のなかではなかなか出てくることのない組織のビジョンや方針に関する話題に加え、キャリアやライフプランに関する話題など部下の状況に合わせた対話が重要だと考えています。
Check inを推進するにあたり、有意義な対話を導くねらいで「5つのC」という対話テーマを打ち出しました。具体的には、「Career/キャリア」「Capability/ケイパビリティ(能力開発)」「Connection/コネクション(他者との連携)」「Contribution/コントリビューション(組織目標への貢献)」、そしてコロナ禍でリモートワークが増え、より重要性が高まった「Condition/コンディション(心身の状態)」です。この5つのCのテーマを軸にした対話の必要性をマネジャー、部下ともに伝えています。
1on1支援ツール「INSIDES」で対話の質を高める
Check in の対話の質を高めるために、1on1支援ツール「INSIDES」を導入しています。部下の表面的な言葉だけでは、マネジャーが知ることができないかもしれない「部下の状態」を可視化するツールは、上司・部下が相互に関心を持ち理解を深めるうえで有益です。また、部下にとっては自分の状態を客観的に知ることで内省につながることも期待できます。
導入のもう1つのねらいは、部下の状態を時系列で追える点です。例えば、充実しているように見えた社員が、あるときを境に悶々とした状態になっていたとしたら、部下の心が動いた原因を探る手がかりをみつけやすくなります。過去から未来にかけての文脈を読みながら、社員のコンディションを読み取り、タイムリーに対策を講じるうえでも役立つでしょう。
また、時系列でデータをためていくことで、マクロで結果を分析して、組織カルチャーの傾向を読み取れるようになります。組織カルチャーの変革は、現状を捉えないことには始まりません。より良いカルチャーをつくることは、人事部が提供すべきソリューションの1つだと思っています。
ツールの導入は、トライアルを重ねて慎重にスタートさせました。その理由は、一過性のものではなく、長く続けていきたい施策だからです。最初に使ったマネジャーたちに好感を持ってもらうことが、長期的に運用するうえで欠かせないと考えました。トライアルの結果、人事部とHRBPすべてが全面的な導入に賛成。まさに今、重要な施策として進めています。
成果・今後の取り組み
マネジャー同士でTips交換会&参考事例を発信
Check inを通じて有意義な対話ができるマネジャーもいますが、試行錯誤しながら取り組んでいるマネジャーも多くいます。そのため、マネジャー同士で話し合うTips交換会を実施しています。「隣のマネジャーはどんな対話をしているのか」「本音を引き出すにはどうしたらいいか」、さらに「言うべきことを伝えるアサーティブフィードバックのポイント」や「部下のキャリアについてうまく対話するにはどうしたらいいか」など、部下を伸ばすフィードバックのあり方や、部下がキャリアを描けるよう支援する手法について意見交換をしました。
講義形式の研修は、知識やスタンスをインプットするうえではたしかに有効です。しかしながら私たちは、そこから一歩踏み出してアクションにつなげるためには、もう一工夫必要だと考えています。具体的には、成功事例だけでなく、悩みもシェアするワークショップを実施すれば、参加者同士の共感を得られますし、何かしらの学びの持ち帰りができると考えました。加えて、アサーティブコミュニケーションやキャリアに関する対話スキルは、座学のみではすぐ実践できるほどの習得はなかなかできないと思います。隣のマネジャーのやり方を学び、苦労に共感しながら実施することで、部下の成長に資するマネジメントが身につくのではないでしょうか。
さらに、Check inやINSIDESに関する情報や事例を、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)通信などに載せて発信する取り組みもしています。これに限らず、対話のヒントに関する情報に、日常的に触れることが大事だと考えています。
Check inの取り組みをキャリア自律にも生かす
マネジャーも部下もCheck inを起点とする一連の仕組みを使いこなせているかというと、まだ改善の余地はあると感じています。例えば、Check inとINSIDESの情報は、部下のキャリア自律にももっと生かせるはずです。どのような対話を通じて、部下の内省につなげていくのか、さらに工夫が必要だと思います。
また、新たな取り組みとして検討しているのは、マネジャーと部下だけではなく、他組織のマネジャーや先輩、同僚など、斜めや横のつながりで実施するCheck inです。人を成長させる対話は、マネジャーと部下だけの間でされるものではありません。さまざまな人と話すことは、とても有意義だと思います。
繰り返しになりますが、経営において人財ほど大切なものもありません。人事部門とHRBPは戦略のパートナーとして「経営戦略に資する人事」「個と組織に資する人事」を突き詰めていくことがミッションだと考えています。今後も人事部門とHRBPが足並みを揃えて、ソリューションの質を高め続けます。
※株式会社リクルートマネジメントソリューションズでは通常「人材」と表記していますが、本記事では中外製薬株式会社の表記に合わせ「人財」と表記しています。
企業紹介
中外製薬株式会社
バイオ・抗体医薬品、がん領域の国内リーディングカンパニー。バイオをはじめとする独自の技術で、革新性の高い新薬の開発に注力している。1896年に設立されたスイスのバーゼルを本拠地に置く世界有数の製薬企業であるロシュ社との戦略的アライアンスを基盤とし、引き続き「革新的新薬」を事業のコアに据えながら、製薬企業に限らず多様なプレーヤーがイノベーションに挑戦する世界のヘルスケア産業におけるトップクラスのイノベーターを目指す。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。