INSIDESはメンバー一人ひとりがイキイキと働くための
「個別の打ち手」を教えてくれる
背景・課題
管理職がメンバー一人ひとりに寄り添うために、部全体にINSIDESを導入
石川:今回、INSIDES(インサイズ)を導入したのは、私たち「セミコンダクタ基盤開発部」です。デンソー社内で「パワーとアナログを中心とした車載半導体」の先行開発と開発環境構築を推進している部門で、コア技術はIP、デバイス/プロセス、実装/材料技術MBDソリューション、機械安全、CAE/設計環境、DXと多岐にわたります。
そのため、モノの専門家からデジタル技術の専門家まで、多種多様なプロフェッショナルが集まっています。2024年7月現在は、私が部長を務め、加藤と矢野が部門内の人財育成を担当しています。
実は、この部門でいち早くINSIDESを導入したのは、私でした。2020年、私が室長を務めていた室(50名ほど)でINSIDESを使い始めたのです。その後、私がセミコンダクタ基盤開発部の部長となった2024年、部全体(100名ほど)に対象範囲を広げました。
私が2020年にINSIDESを導入しようと決めた背景には、私自身の課長時代の失敗がありました。部下たちの状態や気持ちに疎い時期があり、うまくチームビルディングができなかった経験があったのです。私はこの実体験から、チームをうまく回していくうえで最も重要なのは、「メンバー一人ひとりに寄り添うこと」だと考えていました。そのために、メンバーの心理状態を可視化して、上司がメンバーに寄り添うためのサポートをしてくれるツールを探していました。そのなかでINSIDESにたどり着いたのです。
加藤:今回、部全体にINSIDESを導入した背景には、デンソー全社の経営・人事変革方針があります。デンソーはこの数年、デンソー変革プラン「Reborn21」にもとづき、「PROGRESS」という人と組織のビジョンのもとで、キャリア自律を促す人事施策にも力を入れてきました。社員一人ひとりが内発的動機から働く目的を意味づけし直すために、全社でさまざまな施策を推し進めています。
各部門もPROGRESSの方針を受けて、さまざまな取り組みを行っています。私たちセミコンダクタ基盤開発部が主体的に注力している人財育成施策の1つが、管理職の「部下育成力・マネジメント力の向上」です。管理職が、部下との対話の質を高めたり、チームビルディングの方法を学んだり、問題解決力を身につけたりして、事業の推進と共にメンバーの内発的動機を高め、自立・自律を促す努力を重ねています。
その取り組みのなかで、管理職から「部下の状態やモチベーションが見えにくい」「日々の観察だけでは、メンバーが本当にイキイキと働いているのか分かりにくい」といった声を多く聞くようになりました。そこで今回、部下育成力・マネジメント力向上の一環として、メンバーのメンタリティを可視化できるツールINSIDESを部全体に導入することにしたのです。
石川:全社施策で実施されている組織サーベイでは、業務成果軸・組織単位で組織の状態が可視化されます。一方、INSIDESはメンタリティやコミュニケーションに焦点を合わせた、個人軸のサーベイです。また、記名式のため誰がどう困っているのかが分かり、タイムリーに適切な対処ができます。ミクロとマクロ、人と仕事、それぞれ目的も効果も異なるので、両方を実施しています。
検討プロセス・実行施策
普段の印象とワーク・メンタリティのギャップが大きい部下が意外と多かった
石川:2020年、私がINSIDESをトライアル導入したときに最も驚いたのは、普段の印象とサーベイで明らかになったワーク・メンタリティのギャップが大きいメンバーが、意外と多いことでした。もちろん、サーベイ結果が予想どおりだったメンバーもいました。しかしそれよりも、「私と会話するときには前向きな姿勢を見せているのに、内心では好ましくないメンタリティに陥っているメンバー」が目立ったのです。部全体では2024年に使い始めたばかりですが、室長のなかには、早くも当時の私と同じように「あのメンバーは実はそんな気持ちを抱えていたのか!」と驚いている者がいます。
加藤:私も、「あれほど優秀なのに、ワーク・メンタリティに不調を抱えていたのか」とビックリするケースがよくあります。INSIDESを使うと、日々の観察だけでは、メンバーの状況を理解しきれないことを思い知らされます。自分の認識とギャップがあるという気づきを与えてくれる。これが考えるきっかけになります。
石川:INSIDESを使えば、現場を知らない新任管理職でも、部下の個別の困りごとに気づくことができます。そうした意味でもINSIDESは有用だと思います。
「可視化→仮説→検証」を繰り返し、個々のコンディション改善につなげる
石川:INSIDESを活用するうえで欠かせないのが、「可視化→仮説→検証」のサイクルを回すことです。私たちはINSIDESの結果が出たら、ワーク・メンタリティが優れないメンバー一人ひとりに着目します。そのメンバーが関わる室長・課長・リーダーや私、加藤、矢野などが集まって話し合い、「あのメンバーはなぜそのような状況なのか?」の仮説を立てるのです。
例えば、あるメンバーのメンタリティが突然、悪化してしまったとしましょう。多くの場合、その原因はすぐには分かりません。ところが関係する管理職同士でそのメンバーの変化の要因について話し合っているうちに、「そういえばこの前、彼は他部門との折衝が難航していたようだった」といった仮説につながる情報が出てきます。納得のいく仮説を立てることができれば、問題解決策も思いつきます。最後は課長やリーダーが部下と対話・傾聴をしながら、仮説を検証し、問題を解決していくのです。定期的にサーベイの結果を確認しながらこのサイクルを繰り返すことが、個々のコンディション改善につながっていきます。
加藤:ここまで続けてきて分かったのは、「メンタリティは誰もが上下するものだ」ということです。メンタリティは、組織業績や個人業績、忙しさ、組織・業務の変化などさまざまなことに左右されますから、どのような人も、一時的に不調に陥ってしまう可能性があるのです。そのなかには、短期間で自然と回復するメンバーも少なくありません。
ですから、私たちや管理職には「フォローする必要性の高いメンバーは誰か?」を見極め、適切な仮説・検証を行う能力が問われています。その能力も、可視化→仮説→検証のサイクルを回しつづけることで向上していくと考えています。
成果・今後の取り組み
アンケート回答率は100%。メンバーが回答する価値を感じている
矢野:定量的な結果から紹介すると、現在のアンケート回答率は100%です。部全体に展開する前は数名の未回答者がいましたが、石川が丁寧に目的を発信し、また個別に声がけした効果もあり、今は部内の全員がアンケートに回答しています。なお今後、アンケートは2カ月に一度ほどの頻度で実施する予定です。
INSIDESはこちらで自由に実施頻度を選べるのも嬉しい点です。
加藤:回答率100%の大きな要因は、メンバーがアンケートに回答する価値を感じていることだと思います。アンケートに困りごとを書けば、室長や課長が相談に乗ってくれる体制が整ってきているから、安心して回答できるのではないでしょうか。
石川:ただし、始めたばかりということもあり、課長たちに温度感の違いが存在することも確かです。早くもINSIDESを活用して部下全員と1on1を行う課長がいる一方で、そこまで積極的ではない課長もいます。全管理職にINSIDESの効果をよく実感してもらい、活用度をより高めることは今後の課題の1つです。
傾聴で部下の「Will」を引き出し、一人ひとりのキャリア自律を促す
加藤:何よりも嬉しいのは、先ほど石川が話したとおり、「可視化→仮説→検証」のサイクルを回しながら、個々のコンディションの変化の兆しをいち早く察知して、タイミングよくフォローできるようになったことです。INSIDESは、メンバー一人ひとりがイキイキと働くための「個別の打ち手」を教えてくれます。
矢野:今後は、このサイクルを回すうえで欠かせない管理職の「傾聴力」を高める施策も行う予定です。特に新任課長は傾聴力を向上させ、部下の声に耳を傾ける姿勢を身につける必要があります。独自のマネジメント研修に傾聴力強化の施策を加えて、部下が「この人と一緒に働きたい」と思える管理職をより増やしていきたいと考えています。
石川:管理職に特に傾聴してもらいたいのは、部下の「Will(仕事をするうえで大切なこと、やりたいこと)」です。全社のキャリア研修などを通じて、メンバーの多くは自分のキャリアを語れるようになってきました。しかし、Willに悩むメンバーは少なくありません。例えば、デジタル系の専門家たちは技術進化が速すぎて、進むべき道を迷うケースが珍しくありません。また、売上に直結しにくい部門のメンバーは事業への貢献を実感することが難しく、自律的なキャリアを描きづらいという面もあります。そこで管理職にはINSIDESを活用しながら、部下のWillに関する相談に乗ってもらいたいのです。同時に、彼らの業務がいかに事業にとって大切なことにつながっているのかも伝えてもらいたい。そうしたコミュニケーションが、一人ひとりのキャリア自律を推し進めることにつながると考えています。
管理職同士の連携を強化し、組織ぐるみのマネジメント体制をつくりたい
石川:「管理職同士のコミュニケーションが増える」こともINSIDESのポジティブな効果です。少なくとも2020年にINSIDESを導入して以来、私が室長を担当していたチームでは、課長同士がメンバーについて話し合う機会が増えました。部全体でも、同様の効果を生み出していきたいと思っています。
今後は、それぞれが管轄する組織を超えたデータの活用に力を入れたいですね。私たちの組織は部-室-課という構成になっているのですが、例えば課長には所属する室全体のデータを、室長には部全体のデータをオープンにしたいと考えています。そうすることで、部長・室長・課長といった各レイヤーの縦・横両方でのコミュニケーションをより活発にしたいのです。さらにいえば、室長や課長の負荷を減らすために、次世代管理職も巻き込み、組織ぐるみでメンバーの悩みを解決する体制を、将来的には整えたいと思っています。
冒頭でお伝えしたとおり、セミコンダクタ基盤開発部は専門家集団です。そのために部内の人事異動が少なく、コミュニケーションが活発になりにくい面があります。だからこそ、INSIDESを活用して、全管理職が部内のメンバーについて話し合い、考え合う組織をつくりたいのです。全員がさまざまな局面でコミュニケーションを取りつづけることが、部全体の改善にも、個々のメンタル・コンディションやモチベーション、エンゲージメントの向上にもつながるはずだと考えています。
企業紹介
株式会社デンソー
先進的な自動車技術、システム・製品を提供する、グローバルな自動車部品メーカー。スローガンである「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい。」を実現するため、「電動化」「先進安全/自動運転」などに注力し、新しいモビリティの価値を提供すると共に、「非車載事業」として、FA(ファクトリー・オートメーション)や農業の工業化に取り組み、社会・産業界の生産性向上に貢献している。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。